幼馴染とクラスメイトが何やらコソコソと話しているのですが……

「あ、あのぉ……」
カラオケの個室にて私はあまりに頼りない声を発する。
左隣にはヒロとゼロ。対して右隣には萩原くんと松田くん。
さっきから4人は何も話さず、ただただ私を介して逆方向の人を睨め付けている。
まぁ、つまりですね……。

「めっちゃ気まずいんですけれど!!」

誰かこの空気をなんとかしてえええええ!!!

***

前回までのあらすじ。
テストが終わってカラオケに行こうと萩原くんと松田くんと歩いていたら、幼馴染のゼロとヒロに遭遇。そのまま4人でカラオケに行くことに!

──うん、分かりやすいね!そしてこれは絶対私が死すね!!

そんなことを思いながらビクビクっとここまで来たのだけれど、道中彼らはマジで本当に何にも話さなかった。いや、会話があったと言えばあったけれど……。
「どこのカラオケ行こうか?」
「カラ○ケ館でいいんじゃね?」
「じゃあそこで。そっちの人たちはそれでいい?」
「ああ、構わない」
「うん、そこでいいと思うよ」
以上です、裁判長。会話とは?ってなるよね、これ。
後これを聞いている感じ、萩原くんが唯一まともに話している気がする。流石コミュニケーション能力お化け。そういうところ本当にすごいと思う。

と、まぁこんな感じでとっっっても気まずい思いをしながらなんとか個室に入ったのだけれど、誰一人としてデ○モクにもマイクにも触れずに、気がつけば私を挟んで座る形になっていた、というわけである……いや本当、気まずすぎませんか?誰か助けてくれないかなぁ……?

──でもさ、そもそもなんでこんな気まずいことになっているの?

だって別にヒロもゼロも人見知りはしないし、松田くんはよく分からないけれど、萩原くんはあのコミュ力の持ち主なのだから何かしら会話があってもおかしくない。それなのにこんな空気になっているのって会話の内容がないとかそういうこと?私が何か話題を持ち出せばなんとかなる感じ?

とはいえ、共通の話題なんてそうそうないよなぁ……。どうしたものか──あっ。

「そういえば、みんなこの前はストーカーから助けてくれてありがとう。凄く助かったよ……!」
「は?」
「え?」
「あ?」
「ん?」
「…………げっ」
上からゼロ、萩原くん、松田くん、ヒロの順なんだけれど……。
──こ、怖い!!!
ゼロと松田くんに関してはもう声色から素直に怖いし、萩原くんとヒロは言い方は優しいはずなのにそれと表情が伴ってなさすぎる!簡単に言うと目が笑ってない!!

──これは、どう考えても話題をミスったやつですね!?

「ホォー?そういえば、教員からストーカーされていたって話、誤魔化されたままだったな?」
「あ、あれ?そうだったっけ?」
「うん。詳細は聞いてないよ。教員からストーカーらしきことをされたからクラスメイトに協力してもらってなんとかした……としか」
「うっ」
い、いやまぁだって?言いにくい話はさ、こう……ほら、誤魔化して何にもなかったことにするよね?……ね??
「あ〜急に学校やめていったあいつからなんかストーカー受けてたんだったっけか?俺ら、結局概要しか聞いてねぇけど?」
「そうそう、詳しく聞いたはずなのに色々とボカされたんだよねぇ〜」
「あ、あれれ〜?そうだったかなぁ?」
な、なんでこの人たちこういうところで結託してくるの!?さっきまでなんかすごい睨め付けあってた中ですよね?ね!?

──こ、これは逃げるしかない!!

そう思い立ちあがろうとしたのも束の間。
「どこへ行くんだ?」
「なんか話せないわけでもあんのか?」
「ヒエ……」
両隣の男性にガッツリと肩を掴まれたのであった……もしかして私、今日が命日だったのかな?

***

「ってなわけです、はい……」

結局こうなったよね!うん!!
あれから彼らの紹介を交えながら洗いざらい全部吐き出した私は、すごく居た堪れない気持ちになっていた……まぁ分かりきってたことだけれどさ!!
4人はというとなんとも言えない顔をしているし、空気はさっきよりも重たいし!!
だから話したくなかったのに!!!なんて言う私の心の声はきっと誰にも届かないんだろうなぁ……悲しいなぁ……。
「あ〜とにかく、だ。お前が無事でよかった」
「へ」
「そうだね、えーっと、萩原くんと松田くんだっけ?この子のこと守ってくれてありがとう。本当はずっと言う機会を伺っていたんだけれどなかなか言い出せなくってさ」
ゼロに頭を撫でられたかと思うと、ヒロがホッとした顔を浮かべて、萩原くんたちの方へと声をかけた。
「呼び捨てでいいよ諸伏ちゃん。そちらこそ俺らで対処出来ていなかったクラスメイトを締め付けてくれて助かったよ」
「だな。サンキュー諸伏、降谷も」
「あ、ああ……まぁお互い様だろ」
なんだか一気に和やかムードになったんですがそれは……?
「って貴方たちは私のなんなんですかね!?保護者!?」
危うく流しかけたけれど、結構それっぽい会話してましたよね?え?私そんなに保護対象になるほどの性格しているの!?
「松田たちはともかく、僕たちはあながち間違ってないんじゃないか?」
「ああ?俺らだって学校では常に一緒にいるだろうが」
「う、うん……そうだね?」
なんかよくわからないけれど、これ以上続けたらゼロと松田くんが喧嘩しそうな気がしてとりあえず頷いておく。これでも私は平和主義者だしね!
「まぁまぁじんペーちゃん、落ち着いて」
「ゼロも。不用意に喧嘩を売らなくてもいいだろ?」
そしてこの二人だよ……!いつも相方を宥めているだけはある!
思わず心の中で合掌をした時だった。
「ってなわけで、ちょいっと悪いんだけれど飲み物取ってきてくれない?」
「……へ」
萩原くんから急にパシられかけたんだけれど!?
ちょっと待って!?さっきまでのあの温厚さはどこに行ったの!?いや、そもそも何故にパシられているのかなぁ私は!
「あ、オレはコーラで。ゼロはアイスコーヒーでいいよね?」
「ああ。それで頼む」
「えっ……ちょっ」
「俺はジンジャーエールで!陣平ちゃんは?」
「あーんじゃファ○タグレープで」
「………………」
──なんか、みんなして私に対しての扱い酷くない……?

***

「と、あの子が席を外したところで」
仕切り直しとばかりに萩原が声を発する。
さっき、彼が彼女に全員分の飲み物を持ってくるようお願いしたのを見たオレは、瞬時にこの4人で話す場を設けようとしているんだなということを察した。もし本当にパシっただけだったら今頃萩原と松田はオレとゼロでボコボコにしていたと思う。ああ大丈夫、ボコボコとは言ったけれど、比較的穏便に済ませてやるつもりだから。
でも、そんな心配は不要だったようで。
「単刀直入に言うね──俺たち、協定を結ばない?」
かなり真面目な顔でそう告げられた。
「ハギ、他の言い方はなかったのかよ」
「いーじゃん、分かりやすくって」
「そうだな……それで?具体的にはどんな内容なんだ?」
ゼロがいつにも増して真剣に問うた。多分オレと思っていることは一緒だろう。

と言うのも、オレらは以前から彼女を通してこの二人のことは知っていた。彼女と仲良くしてくれていて、でも何かあった時に助けてくれて、それでいて悪い虫除けになってくれている彼らは、本当はオレらがしたくても物理的に出来ないことをしてくれる人だ。初めの方はそれでも羨ましいと思ったり嫉妬もしたけれど、今となっては頼りにしていた。あいつもかなり懐いているみたいだしな。
だからそれを踏まえて、相互間でやり取りが出来ればいいなとは思っていた。なかなか彼らと会う機会が作れなかったから今回はかなりラッキーだけれど、これに乗らない手はない。
「主に2つだけれどね。あの子に関しての情報を共有することと、抜け駆けをしないこと……そういう面で協力をしたい。
俺たちは2人に比べて彼女のことを知らないし、でも逆に学校の中のことなら俺らの方が詳しいしさ?その代わり抜け駆けはしない……どうよ?」
「っておい!」
松田が萩原に抗議するような声を上げる。まるでそれは聞いていないとばかりの反応だけれど、恐らく『抜け駆け』の部分だろうか。
──やっぱりこの二人も彼女のことが好きなんだなぁ。まぁ渡さないけれど。
ゼロにならともかく、ポッと出の彼らに渡すつもりはない。そんなオレたちにとっては情報も入手出来るし、抜け駆けをしないという『言質』を取れるのだから好条件だ。
それに、何より……。
「オレは構わないよ。彼女の護りがより強固になるのならそれが一番だしね──ゼロもそれで良い?」
「ああ。抜け駆けをしないというのならその話、乗ってもいい」
「んじゃ、契約成立ってことで。改めてよろしくな〜、あっ連絡先交換しようぜ」
「って俺の意見は聞かねぇのかよ!?」
萩原が話を進めようとして、慌てて松田が制止に入った。そういえば松田はYESともNOとも言っていなかったな……てっきりYESだとばかり思っていたけれど。
「……はぁ、ったく。わーったよ」
松田は渋々といったように彼は頭をガシガシと掻くと、ようやく頷くのだった。
きっと躊躇ったのは『抜け駆け禁止』の部分だろうけれど、ここでYESと答えた以上契約は守ってもらうことになるし、とりあえず一安心。なんなら高校で変な虫が着くこともないし、いい事ずくめってことで一件落着だな!

***

「はぁ……」
ドリンクバーコーナーに置いてあったお盆に全員分の飲み物を載せた私はどうしたものかといつもより重い足取りで部屋へと向かっている。
「そもそもなんであんな空気になっているのか分からないし、かといって共通の話題も見つからないし……」
2人と2人の架け橋になれるのは私だけだけれど、特に何も提供出来ない時点で詰んでないかなぁ!?泣いていい?いいよね!?えっだめ?そんなぁ〜……。
「さ、最悪私がマイクをずっと持って何かしら歌うしか……っ!!」
私が歌上手だろうが下手くそだろうが音が鳴っていたら空気が重くなることはないでしょ!多分!!バラードとか非恋系を除けば!!……あれ?それはそれで喉が死ぬね?
そんなことを脳内会議で決めたのと同時に重い扉を押す。すると
「え」
想像していたよりも100hPa軽い空気がそこには流れていた。
「これが小学生の時の〜」とか言いながら何やらスマホの画面を見せ合うゼロと松田くんに「何歌う?」って話しながらデ○モクを一緒に操作しているヒロと萩原くん。

──さっきまでのあのお通夜みたいな空気 is どこ?

「あ、おかえり」
「え、う、うん……」
ヒロが私に気づいて声をかけてくれる。するとそれに反応して他の3人の視線も一斉にこちらへと向けられた。
「全員揃ったことだし早速歌おうぜ〜、誰からにする?」
「じゃんけんで買ったやつから右回りでどうだ?」
「それでいいんじゃね?んじゃ行くか〜」
「え、ちょ……」
「「「「じゃーんけーん……」」」」

この後時間いっぱいまでみんなでワイワイカラオケを楽しんでそのまま何事もなく帰宅しましたとさ……。
「って私のいない間に一体何があったの!?」
あんな空気をクリーンにしちゃうなんて、空気清浄機でも1時間はかかるものだと思うのに。
気になって聞いてみても
「さぁな」
「なんでだろうね?」
「ま、急に気があうこともあるだろ」
「そーそー、別に敵対していたわけでもないしねっ」

──本当に何があったのか気になるから誰か教えてよ〜〜〜〜〜!?

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