「はい! ルーファス!」
「……ほう?」
黒い箱に黄色のリボン。
実にシンプルで、しかし見た目の良い箱を差し出されたルーファスは不思議な顔でそれを受け取った。
(さて、今日は何かあったかな……ああ、成程)
ラピスから贈り物というのは滅多にあることではない。瞬時に今日の日付を思い出し、次いで何事だろうかと思考して、すぐにバレンタインという単語に行き着く。
「バレンタインの贈り物かね」
「ええ、そうよ! ナーディアと二人で一生懸命作ったんだから」
「手作りなのか」
その言葉を聞いて、ルーファスの中に期待と不安と驚きが入り混じった。
(ナーディアくんと一緒に作っているならそこまで心配はないだろうが……しかし本当に何でも出来るんだな)
流石ローゼンベルク人形、と言ったところだろうか。もはやそれだけではない気もしてきたのだが、それがラピス・ローゼンベルクという少女の可能性でもある。そう考えるとどこか嬉しささえ感じてしまう。
「ありがとう。今ここで頂いてしまってもいいのかな?」
「もちろん! あっでもちょっと待ってて……私が来るまで開けちゃだめだからねー!」
そう言い残すと彼女は慌ただしく何処かへ駆け出してしまった。
そして待つこと数分後。先程姿が見えなくなった方向からぶんぶんと手を振ってこちらへ駆け寄ってきた彼女は
「ただいまー! ねぇ、開けてない? 開けてないよね?」
と、心配気な顔でルーファスを見上げた。
「そんなに心配しなくても、ちゃんと待っていたよ」
「よかったぁ〜」
ルーファスの告げた言葉に安堵の息を漏らしたラピス。
「それで、何を取りに行っていたんだい?」
「あっそうだった! あのね、これ使って食べてって思って」
危ない危ないと彼女はスッと懐から包装されたプラスチック製のナイフとフォークを取り出して、ルーファスに手渡す。
それを見たルーファスは驚いたように
「お菓子ではないのかい?」
と問う。
バレンタインというのはチョコレートを相手に送るものだ。現にルーファスだって今まで何個も受け取ってきた。その中にはチョコレートではなく、クッキーなどの焼き菓子もあるにはあったがナイフとフォークを使うものなど果たしてあっただろうかと疑問に思うのは当然だろう。
「うーん、チョコレートを使ってはいるけれど……でも必要だと思ったの」
「ほう……?」
これはますます中身が気になる。
「開けても?」
「ええ!」
再度、箱を開けてもいいかと問いかけると元気に頷いてもらったため、それを合図にパカッと箱を開けた。
「……ああ、確かにこれはナイフとフォークが必要かもしれないね」
中にはガレットが入っていた。プレゼント用にと配慮したのかロール状になっており、一見するとクレープのように見える。手で食べられない訳ではないが、中に巻かれているチョコレートが手についてしまう恐れはありそうだ。きっとそこまで考慮してラピスはナイフとフォークを持ってきてくれたのだろう。
「ガレット、レシピ教えてもらってから作ってなかったから頑張って作ってみたの! 味見したときに美味しかったから多分大丈夫……なはず!」
恐らくナーディアとラピス二人で考えてガレットを作ったのだろう。あの事件のこともあるし、その心境は想像が出来た。
(こうやって思いは通じていくのかもしれないな……)
レシピを彼女たちに教えた女性の気持ちも。そしてもちろん懸命に作ってくれたラピスの気持ちも。
「……ああ、頂こう」
食器を手に持ちガレットを口に運ぶ。チョコレートが入っている分甘く、美味しい。
「ほう、これは美味しいな」
「本当!?」
パアアっと花開くようにラピスが笑顔になる。やはり少し自信がなかったらしい。
「よかった! お口に合わなかったらどうしようかと思ってて……」
「そんなことはないよ。流石ラピスだ」
「え、えへへ。誇り高きローゼンベルク人形だから当然よ!」
いつものラピスの口上が聞けたところで、残りのガレットも食べようとナイフを持ち直す。
すると
「そ、それと……もう一個プレゼントがあって……」
「?」
バレンタインというのはチョコレート始めお菓子を送る日ではなかっただろうか。だとしたらもう一つお菓子があるという認識で間違ってないのだろうか?
不思議に思い首を傾げると
「そ、その……」
彼女は先程食器を出したときのように懐からリボンを取り出し、それを自分の手に結んで――
「ぷ、プレゼントは、私なんだけれど……っ!」
「!?」
……さて、これは一体如何したものか。
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