射的【ヴァン×アニエス】 - 2/2

「おっ射的じゃねえか」
リンゴ飴を食べ終わって、再び歩き出した私たちの前に『射的』と書かれている屋台が現れた。
「射的……的を射るゲームなんですね」
「ああ、久々にやってみるか」
そう言いながらニコニコと屋台の人にお金を渡し、銃を受け取るヴァンさん。
「あれ、それってなんですか?」
銃の他に小さな器を受け取っていたらしく、台にそれを置いたタイミングで聞いてみると
「これはコルクで出来た弾だな。無くなったら終わりってわけだ」
「なるほど」
実弾を使うわけにはいかないからなのだろう。屋台側も銃に弾を詰める手間がないだろうし、何より危険性が少ないのがいいなって思う。
「そうだな……アニエス、何か欲しいものあるか?」
「えっ私ですか!?」
まさか聞かれるとは思ってもみなかった。
「いえ、私はいいですから、ヴァンさんの好きなものを……」
「いいから」
ああ、これは言っても聞いてもらえないやつだなと諦めて棚を見る。
種類としてはお菓子やおもちゃ、あとぬいぐるみ系統が多く、確かにスイーツが好きなヴァンさんのお眼鏡に敵いそうなものはない。強いて言えばお菓子かもしれないけれど……
「……あ」
スッと一つのぬいぐるみに視線が向いた。
「かわいい」
それは青いリボンを首に巻いた黒いクマのぬいぐるみだ。何処かかわいいし、何より雰囲気が少しだけヴァンさんに似ている気がする。
「……なんだ、あれがいいのか」
私の視線を辿ったのだろう。彼はめざとくそれを見つけ
「じゃ、いっちょ取りますか!」
銃を構えた。
「……っ!」
ヴァンさんの武器は銃の類ではないから彼が銃を扱うところを初めて見るけれど、思わず息を飲んでしまった。
狙いを定め、バンっという音が響き渡り、弾が綺麗にクマに当たって、そのまま後ろに落ちる。その一連の動作が流れるような手つきであまりに綺麗だ。
「っと、そこまで鈍っていなくてよかったぜ。ほら」
屋台の人からクマを受け取り、そのまま私に渡してくれる。
「ありがとうございます、ヴァンさん」
「おう。しかし弾が余っちまったな。お菓子でも取るか、それとも……」
そう言いながらヴァンさんは次の弾をこめて、銃を構えようとし——
「そうだ、アニエス」
「はい?」
銃から顔を上げると、あろうことかそれを差し出してきて
「お前さん、やってみるか?」
「え」
私に勧めてきた。
確かに気にはなるし、やってみたい。
何より折角ヴァンさんが勧めてくれたのだ。これはやるしかない。
「是非やらせてください!」
気がつけば。
私は力強く頷いていた。
「お嬢さんやる気だねぇ」
屋台の方からそう言われてしまうほどだ。少し恥ずかしい。
「ヴァンさん、欲しいものはないんですか?」
さっき、私の欲しいものを取ってくれたからと、ヴァンさんにも聞いてみるけれど
「そう言ってくれるのは嬉しいが、特に何もないし、取りやすいやつ狙っとけ」
と言われてしまった。
「う、ううーん……」
そう言われてしまってもどれが取りやすいのか、狙いやすいのか分からない。
(これなら私の好きなやつを……)
そして棚を眺めて……また見つけてしまった。
「あれは……」
白いクマのぬいぐるみ。しかも首にはピンクのリボン。
さっきのクマが男の子だとしたら、あのクマは女の子だろうなぁ。
「……えへへ」
あれを狙おう。
見よう見真似でヴァンさんのように銃を構えて、引き金を引こうとする。
すると、突如手が暖かくなり
「多分この角度の方が狙いやすいぞ」
「!?」
耳元で声がした。
慌てて顔を上げると、そこには背後から抱きついているような姿勢で私の手をガイドしてくれているヴァンさんの顔が!!
「ヴァ、ヴァンさん!?」
「うおっ!?」
「あ、すいません……」
顔が近いということは耳元で大声を出してしまったのと同等なわけで……。
「あの白いやつだろ?」
「はい……」
「だったらこの角度のほうがいいと思う。窓から見て中央に頭が来るようにすると後ろに倒れやすくなるはずだ」
丁寧に指導してくれるヴァンさん。
それに合わせて重なった手が動いていく。私も窓から確認してターゲットが綺麗に収まるか見ているけれど……。
(し、心臓の音が……!!)
すごいドキドキする。ヴァンさんからしたら親切でやってくれていることなんだろうけれど、私からしたら好きな人に後ろからギュッとされている感じでどうも落ち着かない。
「こ、ここです!」
色々な心の葛藤を打ち消すようにバンッと音を出す。放たれた弾は綺麗に狙った場所へと当たって、無事に後ろに落ちてくれた。
「やった! やりましたヴァンさん!」
「ああ、おめでとうアニエス」
クマを受け取り、ヴァンさんの温もりが離れてしまった寂しさを埋めるかのように抱きしめる。そしてそれを彼に差し出した。
「はい、ヴァンさん」
「……は?」
「どうぞ、受け取ってください」
「いやいや、それはお前が欲しかったもんだろ?」
「そうなんですけれど……」
白いクマがまるで黒いクマと対になっている気がして。
それなら、ヴァンさんに持っていて欲しいなぁとそう思っただけなのだけれど、きっとそんなこと言っても拒否されてしまいそうで。それこそ変なこと言うなぁと思われてしまうのは避けたいので。
「ヴァンさんにお返しってことで……ダメですか?」
「ぐっ……」
ヴァンさんが断りにくそうな理由を述べてみる。案の定彼は困ったように頭をガシガシすると
「わかったよ。ありがとうな」
思ったよりあっさりと受け取ってくれた。
「でも残りの弾、どうしましょうか?」
箱の中を見るとコルクは残り三つもある。
「お菓子でも取るか。なんならお前さん筋いいしもう一弾打ってみたらどうだ?」
「本当ですか? じゃあお言葉に甘えて」
筋がいいと褒めてもらえたのが嬉しくて、私はさっきよりもノリノリで銃を構えた。
ただ、いかんせん浮かれ過ぎてしまったようで。
「……アニエス、弾込めないでどうすんだ?」
「あ……」
ヴァンさんから呆れたようにそう突っ込まれて、私は思わず顔を赤らめたのだった——

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