教員(モブ)からストーカーされたら将来お巡りさんになる(予定の)人たちに助けられました - 2/2

突然だが『教員からストーカー行為』をされたことはあるだろうか?
出るとこに出ればたちまち大事になり、テレビで学校名と共に放映され、社会的に終わるであろう犯罪行為だ。ワイドショーやSNSで「気持ち悪い」だの「教員のくせに生徒に手を出すなんて」だの「こんな人たちのせいで教員免許の更新制度が」だの言われる案件である。

え、なんで急にそんなことを聞いたかって?
それは勿論

「……まさかとは思っていたけどさぁ」

私がその、ストーカー行為の被害者になっているからです。なうで、現在進行系で。

 

***

 

何故なんだ、何故私なんだ。
朝下駄箱に投函されていた封筒の中身をこっそりトイレの個室で開けてみればそこには私の隠し撮り写真が何枚か入っていた。結構な枚数だけれど、数えたら気持ち悪さがさらに加速しそうだからやめておくことにした。ただでさえSAN値がピンチなのだから余計なことをして更に精神力を削るのは推奨された行為ではないだろう。
「あーあ、上手く撮られてるなぁ」
皮肉交じりの言葉が零れる。
写真の内容はバラバラで、授業中のものや休憩時間のもの、掃除中のものもあれば、行事の時のものもある。ご丁寧に一緒に写っているであろう彼らの部分は切り取られている。
選り取り見取りだ、嬉しくない。
「……やっぱり、あの人しかいないか」
私の脳裏に一人、男性が浮かんでくる。
ここまで豊富なバリエーションの写真を撮れる人は数少ない。この学校では行事の写真などは基本的に写真部が撮影しているため、そもそも教員がスマホやカメラを構えていることなど少ないのだ。
私も写真部の所属だから行事中などは奔走しているし、終わった後先生たちからデータを要望される事も多い。
「部員たちのデータにもこんな写真なかったはずだし」
だとすれば、個人で撮影したもので間違いないだろう。一瞬生徒の可能性も視野に入れたが、この学校は基本的にスマホの使用は禁止されており、授業中に触っていようものなら罰則が待っている。その罰則内容も相当厳しいものだからまず破ろうとする人は少ないだろう。
「なにより隠し撮りの割にはアングルが綺麗だし、これは正々堂々と構えていないと撮れない写真だわ」
ハァ、と溜め息一つ。この時点でほぼほぼ教員だということに絞れた。
そしてその時点で、私は犯人を特定出来てしまったのだ。

……全く、困ったことになった。

 

***

 

「おはよー」
「はよ、今日は早いなお前」
「あ、おはよう」
教室に入り、自分の席で封筒を凝視していると、登校してきた友人たち──萩原くんと松田くんから声をかけられた。
私が高校の中で親しいといえる仲なのはこの二人で、とても良くしてくれており、移動教室やら昼食やらは大抵三人で行動していた。
「ん?なんだ、それ」
松田くんが私の手から封筒を取り上げるように持つ。どこか険しい顔をしているのはきっと気のせいではないだろう。
「なになに、ラブレター?」
「ちょっ萩原くん!」
声が大きい!と小声で言うと、しまったとばかりに口を閉じる萩原くん。恐る恐る周囲を見回すと、複数人の生徒の視線が私に向いていた。あちゃー……。
「ごめんごめん」
「ううん、大丈夫。ちょっと私も動揺しすぎた」
「んで?なんだよこれ」
イライラしたような声で松田くんに問い質される。
「いや、本当にラブレターではないのよ。ただ……ちょっと……本格的にマズイやつ、かな」
「は?」
「どういうこと?」
言葉を選んで告げてみれば、さっきよりも鋭くなった視線を送ってくる松田くんと、真剣な顔で続きを促してくる萩原くんの姿が目の前にあって、少しばかり話すのを躊躇してしまう。
私としては大事にはしたくない。けれど純粋な気持ちとしては怖いし、気持ち悪いし、困っている。
しばらく考えて、あまり巻き込みたくはないんだけど……と思いながらも、誰かに話したい気持ちと、あわよくばちょっとだけでも助けてくれないかなぁという気持ちを優先することにした。
「実はさ、ストーカーされてるっぽいんだよね」
小声で、周りに聞こえないようにそれだけを呟くも
「「はぁ!?!?」」
「何事!?」
「どうした!?」
二人が大きな声を上げた為、クラスメイトたちが驚いたのか揃ってこちらを向いてしまうのだった。

♢♢♢

「それで、心当たりはあるの?」
あれから何とかクラスメイトたちを誤魔化して、空き教室へとエスケープしてきた私たちは、封筒の中身を広げていた。
ちなみに一限目は「こんなことになってるのに授業受けてられるか!」という松田くんの言葉によって三人揃ってサボタージュすることになりました。マジですか。
「それがあるんだよね……残念なことに」
「まぁ十中八九アイツだろうよ」
萩原くんの質問に、私と松田くんが答える。
「って松田くんも知ってたの!?」
「そりゃあれだけ分かりやすけりゃなぁ……」
「うんうん」
「萩原くんまで……」
二人の反応に項垂れる。そんなに分かり易かったのかあの人。かなり露骨ではあったけれどせめてもう少し隠れるなり何なりしなよ、なんて私が言うなって話だが。
「あれだろ、篠川」
「……多分」
篠川先生。かなり若い先生で、生徒との距離が近く話しやすいと評判の人だ。私は必要最低限の会話しかしないようにしているのだが……

「顧問じゃないのによく部室来て話しかけてくるし、部活無いときも教室で資格の勉強の邪魔してくるし」

部室で後輩たちと話すのは楽しいのだが、彼が来ることによって後輩たちが会話に困ることが多く、苦情が出ていたし、そもそも部室に私がいないことを知るとさっさと会話を切り上げて部室を去っていくなんて話を後輩たちから聞かされたら警戒もする。
資格取得の勉強をしている時なんか、せめて缶紅茶の差し入れとかあればまだ……いや萩原くんや松田くんじゃない限りハッキリ言って邪魔なので勘弁してほしかったし。

「あと気安く頭撫でてくるし、話すときの顔の距離が心なしか他の人より近いし」

知ってます?それでドキッとするのは『※ただしイケメンor好きな人からに限る』んですよ?って何回言ってやろうと思ったことか。言ったら面倒くさいなと思って流していた私が馬鹿だった……。
ちなみにこれはどうでもいい補足なのだけれど、篠川先生は別に顔がいいわけではない。よっぽど私の幼馴染たちや萩原くんや松田くんのほうがかっこいいと思う。イケメンはイケメンで困ることはあるけれど。

「本当に勘弁してほしくって…………ってあれ、どしたの二人とも。今にも人殺せそうな顔してますけど」
「……マジで殺してぇんだが?」
「ははは、駄目だよ陣平ちゃん。ここは穏便に社会的抹殺でどうよ?」
「穏便って言葉を今すぐ調べてどうぞ?」
ヤダァこの二人、こわぁ〜い(棒読み)
「とにかく、だ。ここまでされている以上、何かしら対策を取る必要があるだろ」
「まぁね、手っ取り早いのは彼氏を作るか、だけど……」
自分で言っておいてなんだが、それはなるべく避けたいなと思った。
私に彼氏が出来るかどうかはともかく、一番効果的ではあるだろう。酷い話、二人のどちらかに彼氏のフリをして貰うことも出来なくはない。
でも、それは『一般的な普通の高校』での話だ。

私の通っているこの高校は、所謂工業高校である。
しかもデザイン科などといった女子が集まるような学科は併設されていない工業高校の為、共学とはいえ自然と女子生徒は少なくなってしまう。
どれほど少ないかというと、クラスに一人女子がいればいい……ってレベルだ。私の学年も例に漏れず、女子生徒がいないクラスがあるくらいには男女比が偏りまくっていた。
そんな中でなるべく目立たず(無理だけど)、面倒事に巻き込まれず(今回無事に巻き込まれたけど)、女子生徒として優遇されないように振る舞ってきた私は、今では同学年の他の女子より比較的穏やかに過ごせていた。
…………まぁ、男子生徒を誑し込んでたり、媚売っていたり、逆に蔑んだりっていう同学年の女子生徒もいるので普通に振る舞っているだけで私の株が上がっていた、というのが実際のところなんだけれど。あっ、ちゃんとまともな子もいるので安心してほしい。

と、そういった特殊環境のため、私がとる言動も割と注意していたりする。さすがに恋愛方面に関してはからっきしなので何も対策はしていないけれど……精々告白されてもお断りされてもらっているくらいで。私は高校生なのに未だに恋愛感情が分かっていないのだ。その状態で告白をお受けするのは相手に申し訳がないでしょう?
そんな私が嘘とはいえ彼氏を作ったとなれば、瞬く間に学校中の噂だ。それはちょっと……や、かなり面倒なことになる。なにより彼氏役の人の今後に影響しかねない。

「彼氏を作るのは却下な」
「俺か松田ならともかく」
「二人に申し訳ないから却下で……」
でも、こうなってくると手段に困る。
「この封筒一式を持って生徒指導部に行っても無駄だよね」
「相手が誰かという証拠がねぇからな。最悪取り合ってすらもらえねぇ」
「女子生徒だから野郎よりは重要視してくれるだろうけど……」
ハァ、と三つの溜め息が重なる。
いっそのことこのまま警察にとも思うけれど、なんとなく「学校のことは学校で」って言われて終わりそうな気もする。
犯人っぽい人が分かってるのに、証拠がない。その事実が腹立たしかった。
「……ねぇ」
暫くして、萩原くんが声を上げる。
「なんだよ、ハギ」
「いや……ちょっと提案が」
そう言う彼の顔はイタズラを思いついた子供のようだった────

 

***

 

「……ふぅ、大分と解ける問題が増えてきたなぁ」
放課後、誰も居ない教室で私は資格取得の為の問題集とノートを広げていた。何度も解いているその問題集はもはや見慣れた問題も多く、自己採点では合格ラインにまで達している。
余裕を持ってもう少し点数を取れるようになっておきたいなと考え、先ほどまで解いていた次年度の問題を開く、と。
「今日も精が出るねぇ」
「あ、篠川先生。お疲れ様です」
教室に入ってきた教員の姿に思わず『ゲッ』と出そうな声を抑えて、にこやかに応対する。彼はなんの断りもなく真正面の席に座ると椅子をこちらへ向けて笑顔で話しだした。
「いつも熱心に勉強してるの偉いよね〜、他の生徒にも見習わせたいよ。君って真面目だししっかりしているし可愛いし、なんで彼氏いないのか不思議だなぁ」
「あ、あはは。ありがとうございます」
もう乾いた声しか出ないよ!いつものことだけど!
内心では『嬉しくねぇ……』と汗をダラダラかきながら、それでも外面よく、笑顔を作ってみせる。出来る、私は出来るぞ!マカデミー賞を貰えるくらい完璧にやってみせる!って冗談でも思っていないとやっていけないのも考えものだが。
「……そういえば先生ってよく写真撮られてますよね。授業中でも行事でも。あれって何に使ってるんです?」
『ただの好奇心』で聞いていると思われるようにサラリと話題に出してみる。彼は不思議そうに首を傾げると
「普通に鑑賞用にかな?自分の生徒は可愛いからね。あとは写真撮るの好きなんだよ」
しれっとそう言い放った。
……鑑賞用って言ったな?この学校男子生徒ばかりだぞ?あとこの先生は担任を持ってるわけではないのだが篠川先生の生徒って誰が当てはまるんだ?
と、脳内ではツッコミが渋滞しているわけなんだけれど……これ、どこからツッコめばいい?
私が欲しい答え、ないしこの人が上手く口を滑らせてくれそうなものは……
「ふふ、可愛いって……やっぱり篠川先生からしたら男女関係なく可愛いって思うんですね?」
「まぁ男はどうしてもむさ苦しいって思っちゃうけどね。でも女子である君は別だろう?」
ヒェって声が出なかったのを誰かどうか褒めてほしい。ダメダメ、アカンアカン、普通に気持ち悪いです本当にありがとうございませんでした!!
だって今身体震えそうだったもん!勘付かれたらマズイからってなんとか抑え込んだけど背筋凍ったもん!!
「もーやだなぁ〜、褒めても何も出ませんよ?
そんな私の写真ばかり撮ってるわけでもあるまいし」
「いやぁ〜それがね、写真の殆どは君なんだよ?」
ひぎゃあああああああ!!
え、泣いていい?泣いていいよねこれ?というかここまであっさり白状されると余計に気持ち悪くない!?
「……職権乱用って言葉、ご存知でなかったりします?」
うわぁん!あまりに混乱しすぎて思わずツッコんじゃったよ!?
「ん、勿論知ってるよ?だから今朝一部を君に渡したんだけど……あれ、もしかして下駄箱に入っていたの気づいてない?」
スリッパの上に堂々と置かれていたら気付かない選択肢はないと思うんですが、世の中の女性の方々は違うのでしょうか?
ただ、思わぬ私のツッコミで今朝のあの写真の数々はこの人の仕業ということが判明したわけで……
「……なんでですか」
「え?」
「いや、人が好意を持つ時、立場とか年齢が関係ないとは思います。それ自体を否定するつもりはないんです。
でもこれは……このやり方は違うでしょ」
別に部室に来て話をしたり、資格の勉強中に邪魔してきたり、頭撫でてきたり、距離感が違ったり。そういうのはもう百歩……一万歩くらい譲った上で許せる。嫌だけど。心底嫌だけど。それでも私が抗議したり拒否したりすればいいだけなのだ。
しかし無断で写真を撮ってそれを本人の下駄箱に入れる行為はもう一線を越えかけてるのだ。「やめて」で済む話ではない。ましてや教員が生徒へ行う行動としてはアウトなのである。
「まだラブレターとかのほうが余程良かったですよ。先生も知っての通り、私は誰からの告白であってもお断りしていますが」
自分でも怖いほど冷静に言葉を紡いでいく。怖いとかそういう感情よりも巫山戯るなという怒りが湧いてくる。言い方は良くないが、私でよかったとすら思った。可愛い後輩ちゃんたちにやられていたら余計に腹立たしい気持ちでいっぱいだっただろう。
「……も……」
「?」
次の瞬間、先生がガバッと立ち上がり、私の肩を両手で握ってくる。
「い……っ!」
「でも、でも僕はこんなに君が大好きなんだよ!?どこで何していても視界には君が映るし、君を僕だけのものにしたいのに!!じゃあどうすればいいんだ!?」
「し、知りませんよそんなの!!」
「責任取ってくれるよね?だって君優しいだろう?責任取って僕と付き合ってくれるよねぇ!?」
「ヒェ」
今度こそ声が出た。机越しに抱きかかえられそうになり、咄嗟に腕を出して鳩尾目掛けて拳を振るうも届かない!
「や、辞めてください!辞めて!!」
この人に抱きしめられるのは嫌だああああああ!!
「……オイ」
そんな中、響き渡る低い低い声。
『えっ』と先生が振り向いた途端
「グッ……!」
彼の股間が蹴り上げられた。
手が離れると同時に、私の身体が後ろに倒れ、ボフッと背中から抱きしめられる。
「大丈夫?遅くなってごめん」
「萩、原くん……松田くんも」
萩原くんが、怖かったよねと言いながら頭を撫でてくれる。うん、安心する。嫌じゃない。
対して松田くんはキッと股間を蹴り上げた教員を睨みつけていた。
「松田……教員に向かって何して」
「ああ?お前こそ生徒に向かって何してんだよ!コイツ嫌がってただろうが」
「チッ……萩原共々いつもこの子に付いて回って……いつもいつも邪魔だったんだけど」
「そんなの俺らの勝手だろ。別に誰かに頼まれたからやってるわけじゃねえ。俺らがコイツと一緒にいたいから居るだけだ」
「まぁまぁ松田、その辺で」
二人の睨み合いを止めたのは萩原くんだ。彼は私を背に庇うように立つと、そっと私の胸ポケットから取り出した『それ』の再生ボタンを押した。

『ふふ、可愛いって……やっぱり篠川先生からしたら男女関係なく可愛いって思うんですね?』
『まぁ男はどうしてもむさ苦しいって思っちゃうけどね。でも女子である君は別だろう?』
『もーやだなぁ〜、褒めても何も出ませんよ?
そんな私の写真ばかり撮ってるわけでもあるまいし』
『いやぁ〜それがね、写真の殆どは君なんだよ?』

「こ、これは……!」
サァっと篠川先生の顔が真っ青になっていく。
「さっきの会話、録音させてもらいました。勿論俺たちも別室で聞いてましたし、予備で録音もしています。
……流石にこれを教育委員会に持っていったらどうなるか、お分かりですよね?」
ヒェと小さく声を上げる。庇われている側だけれど、そんなの関係なく萩原くんの敬語は冷え切っていて、末恐ろしかった。松田くんは素直に怖いのだけれど、萩原くんは背筋に来る怖さがある。
「そ、それだけは……!」
先生の声が震えている。ちょっと可哀想に思えるくらいにはブルブルしていたけれど、私には止める術も止める気もない。
……正直、私だけが被害にあってるのだからここまでしなくてもとは考えた。でも私が卒業した後に私の後輩ちゃんたちが餌食になるんじゃないかと思考が巡った瞬間、その考えを消したのだ。これは私の所で止めなくてはいけない。次の被害を出してはいけないのだ。
「……篠川先生、詳しいお話は別室でお伺いしますね」
ガラリと扉が開き、そう言いながら入ってきたのは
「きょ、教頭先生……」
「え、教頭先生、どうして!?」
私も予想外の教頭先生だった。
「少し相談に乗ってほしいと松田くんと萩原くんに言われましてね、二人とお話していたときにここの会話が聞こえてきたもので」
「……マジですか」
そっと二人を見ると、片やニヤリと笑い、もう片方はパチンとウインクをした。
…………この二人、相当恐ろしいのでは?

♢♢♢

「ふぅ、終わったな」
「お疲れ〜」
あのあと篠川先生は教頭先生に連れて行かれ、私達だけが教室に残った。詳しい話は明日聞かせてほしいと言うことなので今日はもう帰っていいらしい。
二人はやったぜとばかりに笑顔でハイタッチをしている。一方の私はというと
「ありがとう、二人とも。
来てくれるとは知っていたけれど怖かったぁ……」
情けないことに、腰が抜けて床から立ち上がれなかった。
「お前、最後の方かなり啖呵切ってただろうが」
「あれはあれ、これはこれだよ……まさかあんな風に抱きかかえられそうになるとは思わなかった」
分かってはいたけれど、男女の力差を見せつけられたような気分だ。二人が来なかったら今頃どうなっていたことか、考えただけで身震いがする。
「……まぁでもよかったよ。お前が無事で」
松田くんからポンッと頭を叩かれる。そしてそのまま、わしゃわしゃ〜と髪をかき混ぜれれるように撫でられた。彼がよくやってくる撫で方で、いつもだったら髪がぐちゃぐちゃになる!って止めるところなのだけれど。
「……うっ」
気がつけば、涙が一筋流れていた。
「ちょっオイ、泣くなよ!?」
「な、泣くつもりは、無かったんだけど……安心して……ううっ」
止めようにも止められない。
自分でも気がついていた。初めから怖くて堪らなかったことは。
けれど怖がっていても何も解決しないからと、その感情に蓋をしていたのだ。なんとか誤魔化しながら。なんとか笑いに持っていこうとしながら。
その緊張がプチンと切れたのだ。
「あーもう!大丈夫だから、大丈夫だからな?」
困ったように松田くんが背中を擦ってくれる。そんな顔をさせて申し訳ない。でもちょっとだけ『ふふっ』と笑みが零れてしまったのは許してほしい。
「も〜陣平ちゃん、泣かせちゃ駄目でしょ?
でも、うん。よく頑張ったね」
よしよしと先程よりも優しく頭を撫でられる。
「やっぱり萩原くんのほうが手慣れてる……」
「オイ」
「これは俺、褒められてるの……?」
「ふふ……二人ともごめんね、ありがとう。助けてくれて。二人に頼ってよかった」
すると二人は顔を見合わせるとハァとため息をついた。
「あのな。ごめんね、は余計だ。」
「え」
「そうそう。俺らは君が大切だから勝手に助けただけ。お礼は嬉しいけれど謝罪はいらないよ」
「え、え」
「だから、まぁ……なんだ。これからもなんかあった頼れよ」
「うんうん、そうしてくれたほうが俺たちは嬉しいな」
「……………」
ポカンとする。まさかこんなこと言われるなんて思ってもみなくて、でもすごく嬉しくて。
「ん、ありがとう」
私は、どこか照れ臭そうに、そう微笑むのだった。

♢♢♢

「そういえば、教員からストーカーされていると聞いたんだが?」
「え゙?そ、そんなことあるわけないでしょ〜?」
「いや、それが確かな情報なんだよなぁ。詳しく教えてくれないか?」
「大丈夫だ。そいつにはちょっと痛い目見てもらうだけだから、お前は何も心配しなくていい」
「ゼロとヒロも恐ろしい……というかどこからバレたの!?
あっでも心配することないよ?もう解決してるしノー問題……ってぎゃあああああ!」

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