自暴自棄になって文句を言ったらドロドロに甘い告白をされたのですが!? - 2/2

「ねぇねぇ、今週末合コンあるんだけど来ない?」
「……うん、行こうかな」
仕事終わり、同僚に呼び止められた私はその言葉にコクリと頷いた。
「うんうん、やっぱり貴女は行かないって言うよ……え!?参加するってどうしたのよ!?」
いつも断っている私が了承したからだろう。同僚は驚いたらしい。何かあったのかと心配そうな視線を受けたので
「たまには行ってみようかなぁ〜なんて」
と笑って誤魔化し、私は帰路についた。

私には大学から松田陣平という男に片思いをしている。彼とはかなり親しくしていて、お互いが社会人になってからも定期的に二人で飲みに行ったり、家を行き来したりするくらいの仲だ。共通の友人の萩原くんからは「もう付き合っちゃえよ」と言われてきたけれど、臆病な私はこの関係が壊れるのが怖くてなかなか告白できずにいた。

──でも、そんな関係性に甘えすぎたのかもしれない。

先週のことだ。たまたま街中で松田くんを見かけた。スーツも着ているし、仕事中なのかな?と思いつつ声をかけようと近づいたときだ。
「え……」
女性が松田くんのところへ歩み寄ってくると仲良さげに話しだしたのである。しかも軽いスキンシップまでしていた。
「……………っ!」
胸に槍を刺されたような痛みを感じる。
相手の女性は美人さんだなと思った。松田くんは顔も整っているし、二人並ぶとなかなかに絵になる。

──ダメだ、あの中に私は入っていけない。
見たくなかった。どれだけ心を痛めたところで、所詮友人でしかない私には何も言う資格はないだろう。
何も考えられない。考えたくない。
頭がごちゃごちゃになった私はその場から逃げ出した。

私じゃ太刀打ちできない。何より彼女のほうが松田くんに相応しく思えてしまう。そもそも松田くんと彼女はもう付き合ってるのかもしれない……。
そんな考えがぐるぐると頭を駆けめぐって、その日の晩は号泣しながら寝た。

***

もう忘れよう。諦めよう。私は彼の友人なんだ。それ以上でもそれ以下でもない。
槍で突かれた心の傷がズキリと痛んだ気がしたけれど、そう思うしかない。松田くんが幸せならそれでいいじゃないか。大体少しヘタレて告白しなかった私に非があるのだし、後悔したって遅いわけだし、そもそも告白したところで付き合えたかどうか分からない。
だから、この気持ちは封印するべきなんだ。胸が痛くても、悲しくても。
なんなら私も恋人を作ればいいのではないか。失恋には新しい恋だとよく言う訳だし。

そんな矢先、同僚から合コンのお誘いがあったとなれば行く以外の選択肢はなかった。

♢♢♢

「そうなんですよ!それで〜」
「ああ、あれか!あそこはテンション上がったよなぁ」
結果として。
私は幸運なことに話の合う男性と知り合うことが出来た。趣味の話が出来、話してみた感じ印象のいい男性で。
正直、恋愛感情はまだ沸かないけれど、合コンが始まってから終わるまでずっと話が絶えず楽しかった。
だからこそ、彼からの
「ねぇ、これから抜け出さない?君ともっと話したいんだけど」
というお誘いを断る理由はどこにも存在しなくて、二つ返事で了承の返事をしようとしたとき────。

「おい」

何故か背後から地を這うような声で遮られた。
「え……」
その声の持ち主は、ここにいるはずのない彼のもので。しかもそれが今一番会いたくなかった相手な訳で……。
どうして?なんで?
そもそも見られたところで彼が私を引き止める理由が分からない。私の頭の上に大量の「?」が浮かんでいるのだけは確かだけれど。
彼、松田くんはずんずんと私の元へ歩み寄ってくると腕をガシっと掴んで
「こいつ、これから用事あるんで」
「えっちょっ!?」
一言そう言うとそのまま腕を強く引かれ、私は何も分からないまま連行されてしまった。

♢♢♢

「あの……松田、くん?」
「んだよ」
「これは、どういうことです……?」
あれよあれよという間に車に乗せられた私にはサッパリ状況が読めない。
何故、合コン終わりに出くわしたのか。
何故、私を連れ出したのか。
何故、私を車に乗せているのか。
行き先も知らされないまま、運転している彼に聞いてみれば「あ~」だとか「う〜」だとか呻いている声が聞こえてくる。さっきまでの威勢はどこに行った。
そしてようやく返ってきた言葉は
「お前、彼氏欲しいの?」
「……はえ?」
まさかの質問だった。
「いや、まぁ……失恋?しちゃったからさぁ」
あははと誤魔化すように笑う。ここで『君のことが好きだったんだけどねぇ〜』なんてお酒が入っていても言えなかった。
それなのに、だ。
「あ?失恋?誰にだよ」
「それを普通聞くかなぁ!?」
折角人が隠したのに!なんで!?なんでなの松田陣平!!
ムッと彼を睨むように見つめる。勿論松田くんにはこちらの気持ちなんぞ通じるわけもないのだが……。

────なんだろう。なんかもうこれ、すごく馬鹿らしくない???

考えても見てほしい。私は松田くんのことが好きで、でも松田くんは私じゃない人と付き合ってるわけで、それを知った私は次の恋を見つけるために合コンに行ったのに、いいと思った相手との約束を元凶に潰された挙句、今こうして車に乗せられて根掘り葉掘り聞かれそうになってるんだぞ?

……おかしくない?
いや、もう何がって全部おかしくない?
私が、折角松田くんとこのまま友人関係を続けようと新しい恋を見つけようとしているのに当の本人は彼女持ちのくせしてこっちの邪魔をしてくるっておかしくない??

──このときの私にはやっぱりアルコールを摂取していた弊害が出ていたのだろう。気がつけばそんな思考回路になっていた。私に自覚はないけれど。

うん、だから、もういいよね?ヤケになっていいよね?私、何も悪くないよね???

「もう!誰だっていいじゃない!!
折角こっちはいい相手見つけて喜んでいたところに邪魔しに来てさぁ!大体合コンのこととか全く何も教えてないのになんで来たの!?
しかも勝手に断った挙句、私を車に乗せるとかおかしくない!?
というか松田くん彼女さんいるくせにこんなことしていいと思ってるの!?まさか二股しようとしてる!?最悪!!せっかく私が身を引いたのに相手の女性泣かすなんて許さないからね!?」
「はああああああああ!?!?!?」

何故か車の中に松田くんの叫びが響きわたった────。

 

♢♢♢

あれ?ここはどこ?

目が覚めると、そこは知らない部屋……ではなく、よくよく見れば松田くんの家のソファーに横になっているようだった。
「うっ……気持ち悪い……」
そんなに飲んだつもりはなかったのに胃がキリキリする。失恋のこともあって思った以上に飲んでいたのかもしれない。
「起きたかよ」
「げっ」
キッチンの方から家主が歩いてきて、水を渡してきた。いたの気が付かなかった……。
「げってなんだよ。誰がここまで介抱してやったと思ってんだ?」
「すいませんでした……」
この状況を鑑みるに、それは明白だった。
私は大人しく彼から水を受け取り、喉に流す。うん、少しスッキリした気がする。記憶も飛んでないみたいだし……みたい、だし………………。
「あああああああああああああああ!!」
フラッシュバックする車内での私の叫び声。
あのとき、私、何言った……?いや、皆まで言うな分かってる。全部覚えてる。ものの見事に忘れてない。
「忘れたかった……っ!」
「おい、都合の悪いことだけ忘れようとすんな」
「おっしゃるとおりで」
もういいや、自棄だよ自棄。ここまで来たら何もかも諦めるさ。
はーあ、せめて松田くんとの友人関係は壊したくなかったのだけれど……。
「……お前さ、何か勘違いしてねぇ?」
「勘違い?」
そんな彼は私の隣に座ると眉間にシワを寄せながらそう問いかけてきた。勘違いとは?
「やっぱりかよ……」
すると松田くんはハァと溜め息をついた。なんか酷くない?
「なにさ、勘違いって」
ムッとして聞き返すと、松田くんは「あー」と髪を掻いて、そして……
「俺、誰とも付き合ってねぇし、お前のことが好きなんだけど」
「……はあああ!?」
とんでもない爆弾を放り投げてきた!!
「待ってどういうこと!?あの女性は?」
「あれは俺の同僚だ。先輩づらして来るけれど妹みたいなもんだな」
「じゃ、じゃあ付き合っては……」
「ねぇよ。俺はお前が好きなんだからな」
「は、はえ……」
脳内処理が追いつかない。
え、あの女性は仕事の関係で付き合ってなくて……そして松田くんが好きなのは私で。
わたし、で……………。

……………ん?

「わ、私のことが好きなの松田くん!?」
「だからそう言ってんだろ」

し、知らなかった……というかこれただ私が一人相撲してただけじゃない!?
「ああああ〜〜〜〜〜」
思わず頭を抱えてしまった。恥ずかしい。嬉しいけれど恥ずかしい。勝手に勘違いして、勝手に諦めようとしていたなんて。
もっと勇気を出して本人に確認すればよかった。
「本当お前って馬鹿だなぁ」
「う、うるさいっ!」
ジトっと睨もうと彼を見ると、言葉とは裏腹に優しい目をしてこちらを見ていた。
な、なにこれ……砂糖をどろどろに解かしたような甘い視線が私に向けられてる……?

「そんで?」
「え?」

そっと松田くんの手が私の頬に添えられる。ニヤリと悪戯っ子のように笑う彼は口の端をキュッと上げて言葉を紡いでいく。

「ちゃんと聞かせろよ。お前は俺のこと、どう思ってんの?」
「うっ……あっ……」

息が詰まる。彼の目も雰囲気も溶けたチョコレートのように甘くてトロトロで。

「俺はお前のこと好きなんだけど?」

返事なんて分かりきってるんだとばかりに。

「お前は?」

そんなことを聞いてくる目の前の男は本当にズルくて格好良かった────。

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