「付き合ってください!」
「あー……」
そっと視線を目の前の男性から逸らす。
最近告白されることが本当に増えたなぁと心の中でハァ、とため息を吐きたいくらいには日常化してしまったこの状況に『一体どうやって断るのが一番相手を傷つけないかなぁ』と思考する。
「僕、ストーカーされていたって聞いて、それで守りたいと思って……」
「そ、そう……」
そんなに私、弱く見えるかなぁ?と思わず聞きたくなるくらいにはこのセリフもお馴染みのものになってしまった。
私のこの反応は恐らく『ちょっと!何げんなりしているの!?モテることはいいことじゃない!!なんなの、モテない人への当てつけか何か!?それとも自慢!?』って他校の女子生徒からは思われるだろう。私も逆の立場だったら『モテる人の嫌味』と思っていた気がする。その立場に立ったことがないから分からないけれど。
そもそも告白をされること自体は嬉しいことであるべきだし、今の言葉も喜ぶべきのものなのだろう。私も初め言われた時はそう思っていた。
でも、ですよ?
流石にほぼ毎日誰かから告白をされる日々が一週間も続くとうんざりしないですか!?
事の発端は教員からストーカーされたあの一件にあった。
あれから篠川元先生はきっちり処分されたのか、今はこの学校にいない。大事にしたくなかった私の意見と、就職率が高いこの学校で教員が不祥事を起こしたという問題を大々的に出したくなかった高校側の意見が一致した結果、表向きは『一身上の都合』ということで処理されることになった。松田くんと萩原くんはそれに対して苦い顔をしていたけれど、私が良いと言ったからかそれ以上は何も言ってこなかった。
……と、まぁ。ここで話が終わればよかったのだけれど。
人の口に戸は立てられぬ、という言葉通り、その話題は一気に学校中に広まってしまった。そりゃあ『教員と生徒が』っていう(一方的な)関係性と学年に4人しかいない女子生徒のことってだけで拡散力はお察しだし、私も知られること関しては仕方ないかなぁって思っていたところはある。一応終わったことだしね。
しかし、それから数週間経って落ち着いてきたかなぁといった時に事件は起こった。
そう、告白されたのである。
今までも何度か有難いことに告白をしてくれる人はいた。悉くお断りさせていただいてはいたけれど、真っ直ぐに好きだと気持ちを伝えてくれるという行為は嬉しいものだ。断るたびに申し訳なさが募ってしまうくらいには。
そして、その時告白してくれた人が発した言葉が『ストーカーされていたと聞いて守りたいと思った』だったのである。
不覚にもちょっとドキッとはしたけれど、その相手に恋愛感情が持てるかと言われればNOだったのでいつもの如く『ごめんなさい』と頭をさげたのだ。
その翌日、また別の人に告白をされた。内容はほぼ同じでストーカーされていたから〜と。
いや、もうストーカーは解決してるんだわ。その相手とはもう出会わないでしょうし、他の人からストーカーされる確率なんてナイナイ。
一度目は新鮮味があってキュンッとしたセリフでも二度目になると悲しいかな、脳内で冷静に突っ込んでしまう。
きっとこんな風に思ってくれる稀有な存在はもういないでしょと高を括った私なのだが、気がついたら一週間、合計で五人もの人から同じような理由で告白を受けてしまうことになっていたのだ。
ちなみに目の前の彼は六人目である。マジでか、二周目突入しちゃったよ……。
他に好きになるべき人はいるでしょ!!とこれまで何度も心の中で思ってきた。そんな私じゃなくても彼女というステータスが欲しいのなら別を当たってほしい、とまで思っている。
この学校内だと確かに選択肢はほぼほぼないけれど、他校に行けばたくさんある。今ならネットとかもあるし……まぁ個人情報晒すの怖いけれど……なんて提案を是非ともさせてほしいくらいだ。
その『彼女が欲しい欲』に『あ、この子は俺が守らなくちゃ』という庇護欲みたいなのがくっついちゃった状況がこれかぁ、と思うとそりゃため息も吐きたくなってしまう。
さて、この状態をどうするべきか。まずはこの子へ断りの返事をしないといけないのだけれど、なんて言うべきか。
断る側にももちろん申し訳なさはあるし、これでもちゃんと言葉を探しているのだ。そもそも好意を持ってもらえるのは嬉しいし、それをしっかりと伝えてきた彼には賞賛を送るべきである。それを断るという行為でお返しするのだから誠心誠意対応したい。これで折れないでくれ少年。次好きになった相手にもちゃんとめげずに告白して欲しい。
でもそれを叶えるためにはとにかく今回の告白をトラウマにしてはいけないのだ。
だから、ね?すごくすごく頭を回して言葉を取捨選択して文章を作っているのですよ、私は。
なのにさ……
「あ〜悪ぃ。こいつは俺らが守るから心配しなくていいぜ」
「そそっ、だから安心するように他の奴らにもそう伝えといてくれない?」
突然両隣に来るなり、それを台無しにするのは良くないと思うんだよね私!!
♢♢♢
「ほんっと何してんの……」
鞄を持って駅までの道を歩いている私は、告白現場に乗り込んできた二人に対して大きくため息を吐く。今日で何度目だろう、一週間で一体どれだけ幸せ逃してるんだろう……と思わずにはいられなかったけれど出るものは仕方ない。
「あ゛?待っていても全然戻ってこねぇから様子見に行ったら、お前がウジウジ悩んで断りにくそうだったから話をすぐ終わらせてやったんだろ」
「ウジウジって……私はちゃんと言葉を選んでいたんだけれど」
ダメだこの傍若無人な天パ。多分そこらへん今は考えてないんだろう。
「それに最近多すぎるからいっちょここでサクッと牽制しとこうかな〜って思ったんだよね」
「牽制て」
あれは牽制になるのだろうか、そもそも牽制ってなんだ牽制って。
「まっ君は気にしなくていいよ。牽制のこともだけれど相手のことも」
「そう言われても」
萩原くんがポンッと頭を撫でてくれる。でもあの後、告白を断った後に去っていく彼の姿は寂しそうで傷ついていて。その原因が自分にあるというのがどうしようもなく申し訳がなくて気にするなという方が無理だった。本当は切り替えるべきなんだろうけれど、それが私には出来っこない。
「ああやって告白してくるってことはだ、お前にフラれるのも覚悟してんだよ。だから自分のせいだと思い詰めるのは違うぜ」
松田くんの方へ顔を上げると彼は優しげな顔を浮かべて「だからそこまで気にする必要はねえよ」と頭をコツンとしてきた。
「……うん、ありがと」
単純かもしれないけれど、少しだけ心が楽になった気がする。
「でも、それとこれとは別だからね?」
「おい」
乱入してきてあの言葉は可哀想だと思わないかねお兄さん方?
————ん?ちょっと待って。
「……二人とも、あの時なんて言ったの?」
その時はそれどころじゃなくてサラッと流しちゃったけれど、今思うとなんかすごくトンデモナイ言葉を言われていた気がするんだけれど……気のせい?いや、気のせいだよね?気のせいであってくれ??
そんな思いを込めながら第一声を発していた松田くんの目を見ると、彼はニヤッと笑った。
……あ、嫌な予感。
「ああ?お前は俺らが守るから問題ないって言ったんだよ」
「やっぱり気のせいじゃなかったああああああ!!」
「ついでに他の人にも情報共有しておいてねって伝えといたから当分は落ち着くんじゃないかな?」
「別の意味で面倒臭いことになりそうな気しかしないのは勘違いじゃないよね!?」
そもそも守るってなんだ?この世の中そんな守ってもらうことって存在するっけ?そんなに命の危機ってあるもんだっけ??
確かに毎日何件か『〇〇で殺人事件が!』とかよく見るし、交通事故だって存在するけれど、それらから全部守るってこと?でもそれって監禁するくらいしか出来なくない??
「……嫌だよ?私、監禁はされたくないよ?」
「いや、一気に飛躍しすぎだろ」
「というか俺たちそんなに信用ない?」
信用とか飛躍とかじゃなくて、普通に意思表示しただけなのに、なんで二人ともそんな呆れた顔してるんですかね?
♢♢♢
というのがほんの20分前くらい前の会話である。
あれから駅に着いた私たちは別れて、私だけ逆のホームへと向かい、電車に乗る。
私が乗っている方面は駅数が少なく、少し辺鄙な場所になるため人がまばらで、椅子に座れるのが嬉しい。乗車時間はそこまで長くないけれど、行き帰りはイヤホンをしながら本を読むのが私の日課だった。
やがて最寄駅に着き、電車を降り、改札を通って、帰路につこうとして——私は立ち止まる。
……私、つけられている?
いやいやまさか。なんか最近ストーカーにあったからちょっと敏感になっているだけだよね!
そう思いながらもコッソリ音楽を停止させて周囲の音を拾えるようにする。怪しまれないようにイヤホンは装着したまま。
少し道を変えるべきかと脳内で地図を描き、道順を設定して私は再び歩き始めた。
♢♢♢
結論から言おう。
これはつけられてますわ、私。
って、おかしくない!?なんで?厄年だっけ今年?こんなに頻繁にストーカーされるものなの!?
私でこんなに食らうってことは世の中のイケメンや美女は一体どれだけ被害に遭ってるんだろう……?
……という愚痴はさておいて。
判断出来たのは割と早い段階だった。わざと遅く歩いてみたり、早く歩いてみたり、迷っているふりをしてみたり等々してみた結果、それに合わせるように後ろからの足音が聞こえたり聞こえなかったりするのだ。気配もずっとするし。
そういえば今日、帰りの電車内でいつもなら見かけないクラスメイトを見た。どこか遊びに行くのかなぁ〜とか思っていたけれど、もしかしたらストーカーは彼かもしれない。
なんせ学校の最寄り駅は私たちが使っているのともう一つ別にあり、使用生徒数は圧倒的にそちらの方が多い。そして同じ駅を使うにしても松田くんたちが使っている方向は乗り換え駅があったり繁栄していたりする反面、私の方面はさっきも述べたように辺鄙な住宅街に向かうのだ。別路線との乗り換え駅があるわけでもないので自然と同じ学校の制服を着ている人は顔見知りくらいにはなる。つまり見覚えがないということは、それ即ち自分の家の最寄りではないということになるわけで——。
そしてもう一つ。私は彼から告白されて断っているのだ。しかもここ数日の間に。
『たまたま用事があって』同じ駅で降りたのならばある意味すごい確率ではあるが。
————さて、どうしよう?
このまま家に帰るのはどう考えても悪手だ。交番は無人で基本的に人がいない。
そうなると、ここは駅に戻るのが一番無難だろう。
そう考えて私はルート変更を脳裏で行い……。
「おい」
「きゃあ!?」
後ろから肩を叩かれ、身体が跳ね上がる。
えっ嘘、ストーカー!?ちょっと考え込んで鈍足になったから声かけにきた!?
「そんなに驚くことないだろ。俺だ」
「……へ」
その言葉に恐る恐る後ろを振り返ると、そこには
「ゼロに、ヒロ?」
幼馴染二人が立っていた。
「よっ!放課後に会うなんて珍しいな」
「だからってあんなに驚くことはないだろ……」
ニコニコと人懐っこく笑っている諸伏景光と、さっきの私の反応が不満だったのか怪訝そうな顔をしている降谷零……彼らは私の小学生からの幼馴染だ。成績も良く、運動神経も良い彼らはここらでは有名な成績上位者しか通えない男子校に通っている。私たちは高校入学前までは常に三人で行動しているほど仲が良くて、高校が離れた今でも週末には会って話したりどこか出かけたりしていた。
……まぁ、その成績優秀さに加えて顔がすこぶる良い二人と常に一緒にいた私は、これはこれは女子たちから様々な仕打ちをされてしまって女子が苦手になってしまったのだけれど。そういえばそれが突然何事もなくピタリと止まったのだけれど一体何があったんだろう?それはちょっと気になるところだ。
「で、なんであんなに俺は驚かれたんだ?」
「確かに、ちょっと尋常じゃない驚き方してたよね……どちらかというと怯えていたような?」
「ぐ……」
す、鋭いぞこの幼馴染ども……。それともそんなに分かりやすかったのかな私の反応。
って、そんな悔しがっている場合じゃない。むしろこれは渡りに船なのでは?
「い、いやぁ〜それが……」
そう言いながらポケットからスマホを出す。口に出して聞かれでもしたら面倒だ。
そしてチャットアプリを起動し、三人でのグループチャットを開いて
『駅からつけられてるみたい』
と送信。
「!?」
「……っ」
瞬間、二人の表情が緊迫したものになった。が、すぐに
「そういえばお前、最近勉強はどうなんだ?実技はともかく筆記はからっきしだっただろ」
「ちょっゼロ酷くない!?実技で全部賄って、かつプラスになってるから良いんです〜」
零が世間話を振ってくれた。無言で三人揃ってスマホをいじっている光景はおかしいもんね、そこら辺は流石である。
そういうたわいの無い会話を表面化では進めつつ、チャットアプリでも並行して会話を入力していく。
『相手に心当たりは』
『ある。帰りの電車内で普段は乗って来ないクラスメイトが乗っていて、たまたま降りる駅も一緒だったからその子かなって思ってる』
『目で追っていたの?』
『そりゃここで降りる同じ学校の生徒なんてみんな顔見知りだから。ちょっと気になって』
彼のことは改札通ってふと後ろを振り向いた時に存在を感知したのだ。ただ改札口で立ったまま動かないから、待ち合わせなのかな?ってその時は思ったけれど。
『そいつからストーカーされるようなことしたのか?』
『数日前に告白されてフった』
『なるほどな』
うーん、話が早い。松田くんや萩原くんもそうだけれどなんでこうも彼らは的確なのだろうか。あっだから頭がいいのかも?
二人が顔を見合わせる。そしてふっと笑うと
「あとは俺らに任せとけ」
零が背中を叩いて
「君はここにいてくれればいいから」
景が頭を撫でて。
そのまま二人でストーカーがいるであろう方向に歩いていった。
その背中は幼馴染という贔屓目を抜きにしても頼もしくて、かっこよくて……
「……うん、お願い」
私は信頼の眼差しで彼らを見送るのだった。
……そういえば、すっかり忘れていたのだけれど、あの二人って怒るとすごく恐ろしいんだよね。特に口が達者で何を言っても言いくるめられるというか、何を行っても無駄感がすごいというか。
「ん?これって大丈夫?」
主に相手のメンタル的な意味で。
***
「うっわぁ……」
遠目からでも分かる、相手の怯えようと幼馴染たちの目が笑っていない笑みを見て、私ですら身をぶるっとさせた。何を言っているのかさっぱり分からないけれど、不思議と聞きたいなとは思えない。
やがて、二人は彼を連れて私の目の前まで歩いてくる。
「あ」
やっぱりストーカーはクラスメイトの彼で正解だった。顔面蒼白で瞳には涙が溜まっているのを見ると、思わず慰めの一言をかけたくなるのだが原因は私にあるので何も言わないでおく。どれだけ怖かったんだ二人とも。
「その、すいませんでした!」
ガバッと勢いよく頭を下げられる。次いで
「学校だと松田や萩原がいて話しかけにくくて、でもどうしても俺の気持ちを知って欲しくて……っ!」
と私をここまでつけてきた理由を述べた。
一応補足なのだが、私は学校内では常に松田くんと萩原くんと行動している。でもそんな中でも私に用事があるクラスメイトは彼らを気にせずに話しかけてくるし、別にそれに対してあの二人が何かを言う事は無い。それが出来ないんだっていう人はチャットを介してくることもあれば、呼び出してくることもある。現に目の前の彼はチャットで告白してきており、その後に屋上に呼び出してきて再度告白をしてきたのだから、校内で私と会話が出来ないわけではないことを知っているはずだ。
「…………」
正直、言いたいことは沢山ある。どうしてそこまで必死なのかと聞きたくなる。
でも、それ以上に。
「……私には貴方の気持ちは分かりません。もう二度もお断りしたはずです。それでも尚、私のことを想うのは自由ですが、だからって犯罪に走ってどうするんですか。そんなことをされても私の気持ちは変わりません」
「ぁぁ……」
顔を上げた男子生徒の顔が歪んでいく。けれどそんな顔されても今の私には君に対しての慈悲はない。
「今回の一件で私は貴方のことが嫌いになりました。もう辞めてください。
もし、次何かしらの行動をされた場合、今回の件と合わせて然るべき対応をさせていただきます」
「あ……あ……」
「と言うわけで、ここからお帰りください。私は貴方が去るまでここから動くつもりはありません」
そしてこれで話は最後だとばかりに視線をふと逸らす。
しかしクラスメイトは立ち去る様子はなく、ブルブルと震え、何事かをボソボソ呟いている。
「……なら……するしか」
「?」
上手く聞き取れなくて首を傾げた瞬間
「それならこうするしかない……!」
声を上げて何かを鞄から出してこちらに突き出してきた!!
「ヒッ!?」
ってナイフですよねそれ!?
それを掲げた彼は狂ったような笑みで私めがけて刺しにかかっていて……
一方で私の身体は脳では反応できているのに固まってしまったかのように身動きが取れなかった。
このままじゃ、やられる————!!
「チッ!」
「危ない!」
その時、そんなに大きくない舌打ちが妙に響いて、ギュッと温かいものに抱きしめられて、
ドガッ
カチャン
ドサッ
その後を続くように大きな音が三連続で耳に届いてきた。
「……大丈夫か」
「ヒ、ロ……」
咄嗟に抱きしめてくれた景がポンポンと私の背中を宥めるように叩く。それだけで呆然としていた私の頭が働き出す。
「ってヒロは大丈夫!?」
「俺は大丈夫だ、ゼロも問題ない」
「よ、よかった……」
二人の呻き声っぽいものが聞こえなかったから心配ないとは思っていたけれど、ちゃんと本人から安否を聞くとホッとする。私の体から力が抜けたのが分かったのだろう、景がそっと抱きしめていた身体を離す。
「……っ!」
そして私の視界に写ったのは、あまり認めたくない現実だった。
道に落ちているナイフ、倒れているクラスメイトを押さえつけている零、景もいつの間にかスマホを取り出してどこかに電話をしている。内容を聞く限り110番だと思う。
きっと零が咄嗟にナイフを叩き落とし、拘束してくれたのだろう。景は私を庇いつつ、そんな状況を見せないように抱きしめてくれたに違いない。
ガタッとその場に座り込む。まさか実力行使、しかも刃物を持ち出してくるとは思わなかった。
「僕は別にこいつが良いと言うんだったらそれで良かったんだ。
でもな、こいつに危害を加えようとする奴は許さない」
ドスの効いた声で、見たこともない顔で、零がクラスメイトに言い放つ。それに続いて
「犯罪は犯罪だ。大人しく捕まるんだな」
景もまた、覚えのないほどの冷たい言葉を彼に浴びせるのだった。
***
暫くして警察がやってきて私たちは事情聴取を受けた。
景が録音をしていたのには少しビックリしたが、そのおかげでスムーズに話は進み、クラスメイトが連れて行かれてようやくひと段落ついた頃には夜になっていた。
『送って行こうか?』という警察官の方のご厚意をお断りして、私の家へと三人揃って歩き出す。
「それにしても災難だったな」
「……うん」
災難、だったのかな?二回立て続けにこういうことを起こしてしまって、これは果たして災難で済まされるのかな。
「私……家から出ないほうがいいのかな?」
だって前回も今回も学校に通っていたが故に起きてしまったことだ。専門的なことを学べるしあの学校で学びたいこともたくさんあるけれど、私がいるだけでこうも問題が起きてしまうのならばいっそのこと……。
「は?」
零から低い声が飛んでくる。
「お前、本気で言ってるのか?」
「……まぁ」
思わぬ言葉に少し後退りながら返事をする。すると
「ふざけるな!なんのために俺らがお前と一緒の高校に行くのを諦めたと思ってるんだ!」
怒鳴られた。思わずビクリと身体を震わせる。
そうなのだ、元々高校進学の際、零と景は私と一緒のところに行けるようにとランクを一つ落とした共学の高校を受けようとしていたし、私にもそれを勧めてきていた。
けれどそれを私は蹴ったのだ。その時には技術の授業で電子回路を組み立てるのが好きだったし、興味もあったし、パソコンを使ったプログラミングも学びたかった私は、女子生徒が極端に少なくても構わないからと工業高校を志望した。私のためにと勉強が好きな彼らが最高ランクの高校への志望を諦めているのが嫌だったのもある。
初めは譲ってくれるどころか「男が多い場所はNG!」ととんでもない過保護っぷりで拒否されてしまったのだけれど、それを根気強く説得して、なんとか最後には「お前がやりたい事なら応援するよ」と言ってくれた。
「お前は、俺らの気持ちを踏みにじるのか?」
「それは……」
スッと視線を逸らす。踏みにじることはしたくないけれど、こんなことが立て続けに起きたらそれでいいのかななんて思ってしまう。
「ストーカー被害が続いちゃって参ったんだよな、きっと」
不意に景が言葉を挟んできた。零とは違い、穏やかな声で。
「でもな、お前が悪いわけじゃないんだ。今回だって前回だってなんとかなっただろう?だったら次も大丈夫さ」
「で、でも2つとも助けてもらえたからよかっただけで……」
そう、私だけでなんとかしたわけではないのだ。松田くんや萩原くんや、ゼロやヒロがいなかったら私はただでは済まなかった。
「別にそれでいいだろ。むしろもっと助けを呼べよ」
「え」
さっきまで怒っていた零が少し拗ねたように告げる。
「高校は別でもなるべく助けになりたいと思ってるんだ、僕らは」
「うん、君は遠慮しがちだからなぁ。細かいこと気にせず、助けてほしかったら助けて!って言ってくれればいいんだぞ」
「ゼロ、ヒロ……」
わしゃっと景が頭を撫でてくる。一見雑に見えるがすごく優しいその手に思わず身を委ね、目を閉じた。『お前はしたいことをしていいんだ』とそう言ってくれている気がしたのはきっと気のせいじゃないだろう。それがまたすごく嬉しかった。
「ま、暫くは駅で待ち合わせて一緒に帰るか」
「そうだな。念の為でもあるし、お前とも会えるから一石二鳥だし」
「……ん、ありがとう」
ふっと笑顔を浮かべると、幼馴染二人もそのイケメンフェイスを優しく歪ませてくれるのだった⸺⸺
◇◇◇
「そういえば、前お前に告白してたやつ。警察沙汰になったらしいけれどお前なんか知らねーの?」
「え、何のこと?知らないよ??」
「本当に〜?素直に言ったほうが楽になると思うよ?」
「ヤダなぁ〜私がそんな嘘つくわけ…………ちょっつねらないで痛い痛い!すいません嘘ですごめんなさい全部話すから許してえええええええ!!!」
♢二度目のストーカー被害にあって気持ちが沈んだ夢主
え、こんなにストーカー被害にあうことってある?と頭を抱えた。ちなみに一週間続いた告白地獄はあの二人の発言の影響でピタリと止まることになる。
幼馴染二人には頭が上がらない。『やりたいことをやれ』『助けてほしかったら助けてと言え』等々救われる言動ばかりしてもらっていてありがたい限り。シラを切るのは基本的に得意なはずなのにセ〇ム達には尽くバレるのなんで。解せぬ。
♢幼馴染セ〇ムその一
金髪の方。成績優秀だし武道も出来る。
夢主のことは幼い頃から放っておけなかった。彼女の性格の明るさに救われてる人。
夢主に危害を及ぼす人は許さないマン。
教員からのストーカーに関して聞いた際、なんでもっと早く言ってくれなかったんだとかなり拗ねた模様。
松田と萩原の名前が出た途端、ピクッと反応したけれどすぐに収めた。夢主と一緒にいるポジションを奪われた気がして悲しいと思ってたり。
♢幼馴染セ〇ムその二
一見大人しそうに見える方。実は用意周到。
夢主のことは放っておけない。零のことも放っておけない。やれやれ俺がストッパーにならなくちゃなと思っているけれど、ストッパーになるどころかとどめを刺しているのは自分だという自覚はない。
教員からストーカーされてたと聞いて、無事でよかったと安堵した人。
助けてくれたという松田と萩原って人と一度会って話してみたい。なんなら協力関係を結びたいと思っている。まぁ譲れない部分はあるけどな!
♢夢主の努力をなかったことにしたセ〇ム
うじうじ考えるよりああやって言ったほうが話が早かっただろうが。と言いつつ、いい加減守りたいと思ったからっていう理由で告白されるのを見ていられなかった人。別に俺と萩原がいるからいいだろうが。
後日、クラスメイトからもストーカー受けていたと聞いて、こんなことなら締めておけばよかったと物騒なことを考えたとかなんとか……。
♢牽制に入ったセ〇ム
まぁまぁ、ああやって情報拡散してくれれば告白されるのを防げるでしょ?と言いつつ、ただ独占欲をさらけ出した男。陣平ちゃんは良し。ただし他はダーメ。
後日クラスメイトからストーカー受けていたと聞いて、何事もなくて安心したと共に校内でのセ〇ムを一層厳しいものにしようと提案して実行することにする人。プライバシーは守るからそこは安心してね☆
あと夢主の幼馴染に対して興味があったり。
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