「ん~美味しい!」
「ああ……本当にな」
一二月三一日のとある場所にて。
ナーディアたち四人は炬燵というヒーター付きのテーブルに布団をかぶせてあるものを囲いながら、お椀によそわれた年越し蕎麦を食べていた。
「これって今年行ったクレイユ村の蕎麦粉?」
「その通りだよラピス。その時に村人から頂いたものを極東の文化である年越し蕎麦を作ってみたのだが……いかがかな?」
「うん! とっても美味しいわ!!」
満面の笑みを浮かべて答えたラピスを見て、内心ホッとしたルーファスは安堵の表情を浮かべる。そんな彼の手元にはワイングラスが握られていた。
「それにしても、ルーファスだけお酒が飲めるのず~る~い~!!」
それに視線を向けたナーディアはむぅっと頬を膨らませる。もちろん彼女は飲めない年齢だ。
「仕方ないだろナーディア。ノンアルコールで我慢するんだ」
「ううん! これすっごく美味しいから全然これっぽっちも羨ましくないからねすーちゃん!!
ただどうせならアルコールが入っていて欲しかったなぁ~って思っちゃっただけなんだから!!」
「お、おう……ならいいんだが」
なんでそんなに必死になって否定するんだと疑問に思ったスウィンだったが理由は明確だった。
というのもナーディアの飲んでいるノンアルコールカクテルは、何を隠そうスウィンの手製なのである!
「これって色んな飲みものを混ぜているんでしょ? それなのにこんなに美味しいだなんて、スウィンすごい!!」
「そんなに褒められると照れくさいんだが」
どこか困ったような、でも嬉しそうな表情で頰をかくスウィン。そして話を切り替えるためにコホンと咳払いをして。
「それにしても、本当に色んなところを回ったな」
今年一年を振り返るようにしみじみと声を発した。
「その前にとんでもない事件があったけれどね~」
そう言いながらナーディアがジトっとルーファスを見るも、彼はふふっとそれをあっさりと受け流す。
「でもそれがあったから皆でこうやって旅が出来ているんだもの!! 私はすっごく良かったって思うよ。ナーディアはそうは思わないの?」
「ぐ……」
コテンと首を傾げられて思わずナーディアが声を詰まらせる。
もちろん彼女にとってこの四人は居心地がいいし、自分がその時のノリで名付けた『新生帝国ピクニック隊』という名前も気に入っているし、今こうやって旅が出来ているのは今までの人生の中で一・二位を争うほどワクワクして楽しいものだ。だからこそ
「そんなこと言うラーちゃんにはこうだ~!!」
ガバッと彼女はラピスをこちょこちょこちょ~とくすぐった。
「ちょっナーディア……くすぐったいよおおお!」
擽られたラピスはというと、キャハハと笑って、でもやっぱり辛くなってきてなんとか抜け出し、炬燵から出るとそのままルーファスの膝上へと座った。
「あらら、ボスの所へ行っちゃった……おーいラーちゃーん! こっちおいで~?」
「やだ! ナーディアは意地悪するし、ここが一番落ち着くもん!!」
「とのことだが、どうするのかね?」
「うー……勝ち誇った顔してる……」
いつもの如く、後ろからラピスをぎゅっと抱きしめるルーファスを見て不服そうな顔を浮かべたナーディアはあっさりとラピスを諦めた。そして
「すーちゃーん!! 慰めてええ!!」
「ってちょっナーディア!?」
ガバッと炬燵から出たと思ったらそのままスウィンへと抱きつく。
「ん~! やっぱりすーちゃんあったかぁ~い!」
「多分俺じゃなくて炬燵の影響だと思うんだが……全く」
そう言いながらも頭をよしよしと撫でるスウィン。その時
「ほら、諸君。そろそろ年明けのようだよ」
ルーファスのその言葉が合図になったかのようにラジオから「五・四」と掛け声が聞こえてくる。
「三!」
「二!!」
「一!!」
ラピスとナーディアが叫び、スウィンもそこそこ大きな声で、そしてルーファスは落ち着いた声で。
「ハッピーニューイヤー!!」
そんな声が重なった一二〇八年の元旦──。
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