ガリガリガリとペンの走る音だけが部屋に響いている。
夜、寝る前のこの時間だけがルーファスの本心を誰にも見られることなく曝け出せる唯一の時だった。苦しげに顔を歪ませたり、時折何かを堪えるかのようにぎゅっと爪が食い込むくらい拳を握ったり。
ペンで文字を書いているときの音ですら自分の叫びを代弁しているかのようだ。
こんなところ、スウィンやナーディアにも見せられまい。ただでさえ彼らも落ち込んでいる中、こちらのことを心配しているのだ。これ以上自分のことで余計な心労はかけたくなかった。
「……全く、私がこんなことを書くなんてね」
少し自称気味に微笑む。目にはうっすら涙が浮かんでいるが、それすらもう日常の一つになってしまっているのがとてつもなく悲しい。
机の上の便箋にはギッシリと言葉が埋まっていた。
あの時から本当に毎日手紙を書いていたルーファスは、ラピスが倒れてからもその習慣を続けていた。
初めの方は『目を覚ましてくれ』『君はもう二度と私の目の前で笑ってくれないのだろうか』などとまだ文章になっていたのだ。それも今となっては『会いたい』『話したい』『抱きしめたい』と言った文章にもならない、しかし願望が詰まった単語で何枚もの便箋が埋め尽くされる。
便箋を丁寧に封筒に入れ、きちんと封をし、次いで一つの箱を開けた。
その箱には彼女に渡せていない恋文がこれほどかと言うほど入れられている。そこに今回もまた一通手紙が追加されてしまうのだ。
「ラピス」
小さく、眠っているであろう彼女を見て、名を呼ぶ。
返事など返ってくるはずもないのに、その現実にまた唇を噛んだ。
「一体、いつになったら君はこれを読んでくれるのだね……?」
今にも泣きそうな声で呟かれた言葉は、やはり誰かからの返事を受け取ることなく、空気の中へと溶けて消えていった────。
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