「すいませーん、メイプルスコーンくださ~い」
「俺はエクセルミルクラテで」
「かしこまりました」
共和国でスウィンとナーディア二人で行動するようになり数日。今朝唐突に「行きたい場所があるの!」とナーディアに引っ張られてスウィンが連れてこられたのは駅前通りのオーバルカフェ《イオタ》だった。
「おい、情報収集するんじゃなかったのか……?」
困惑した顔でスウィンが彼女に問いかける。
「も~、すーちゃんってば! たまにはゆっくりするのも大事だよ~?」
状況的にここでゆっくりしている場合ではないだろうと視線で訴えるも、彼女はどこ吹く風とばかりにそれを受け流した。
「それは時と場合によって、じゃないのか?」
「でも焦っても何も変わらないよ、むしろ焦って何か失態を犯しちゃうかもしれないでしょ~?」
「うぐっ」
それを言われてしまうとぐうの音も出なかった。
ナーディアの言っていることは正論だ。『急がば回れ』『急いては事を仕損じる』等々、そのような言葉もあるくらいだし昔の人たちもそれで重大なミスを犯していたのかもしれない。
「それに、当分の間はこうやってすーちゃんとのんびり出来なくなっちゃうし~」
「…………」
いつもの調子で言う彼女は、しかし声色とは裏腹に表情が酷く寂しげだった。
今後更に忙しくなってしまう。考えたくはないが場合によってはこの共和国自体が平和じゃなくなってしまう可能性すらある。そんな中二人でのんびりゆっくり過ごす時間など捻出出来ないだろう。
「ラーちゃんと共和国スイーツ巡りするって話していたのに、別行動になっちゃったし~」
「…………」
共和国行きが決まった時、ナーディアとラピスがすごくはしゃぎながらそのような会話をしていたのを彼はルーファスと共に聞いていた。その場にいた全員、『そのようなことは出来ないだろう』と察していたのにそれを誰一人突っ込むことも、顔や声や態度に出すこともしなかったあの独特な雰囲気を思い出して、スウィンは思わず顔を伏せた。
「だからすーちゃんは今日は思う存分なーちゃんと一緒にスイーツ巡りをするのですっ!」
「待て、俺がスイーツ巡りに付き合うのか? いや、そもそも今日一日ゆっくり過ごすつもりなのか?」
てっきりオーバルカフェだけだと思っていた彼は目を瞬かせる。頭が痛い気がするが敢えてスルーした。
それにスイーツ巡りはラピスとの約束であってスウィンとのものではなかったと彼自身が記憶している。なのにどうしてナーディアはスウィンを連行しようとしているのだろうか。どういうことだと言わんばかりに首を傾げると、彼女は表情を寂しげなものから楽しげなものに変えた。その変化にスウィンはどこか安心しつつも彼女の言葉を待つ。
「だってラーちゃんとはいつ行けるか分からないし、なーちゃんたちがラーちゃんを迎えに行こうにも誰かさんのせいでCIDに監視されちゃって自由に行動できないんだもん。
それならラーちゃんと行くことが出来るまでスイーツ情報を集めようかなって思って。なーちゃんはすーちゃんとデート出来るし、息抜きも出来るし一石三鳥~」
「あのなぁ……」
そう言いつつもスウィンの顔は微笑んでいた。
「いいでしょ、すーちゃん?」
これで『嫌だ』と言っても結局は連れ回すくせに。と心の中で突っ込むも、それが不愉快ではなくむしろ嬉しかった。
――たまには、自ら誘いに乗るのもいいかもしれない。
「……そうだな。いいんじゃないか?」
「やった~!」
目に見えて喜ぶナーディアは早速とばかりに何冊か雑誌を机の上に広げて「ここと、ここと……あっここも美味しそ~!」と言いながら行く場所を精査し始めた。
その様子をどこか穏やかな気持ちでスウィンが眺めていると
「それにね、すーちゃん」
「?」
ナーディアがふふっと笑いながら
「一石三鳥じゃなくって、一石四鳥なんだよ~?
だって、これでラーちゃんたちに、なーちゃんとすーちゃんが元気にしているって伝えられるからね~」
彼の胸元に光る三つのバッジを見つめながら、これまた嬉しそうに告げるのだった──
【補足(という名の妄想)】
ルーファスさんのことなので、もしかしたらすーちゃんのバッチに発信器や盗聴器がついていて、常にルーファスさん側で二人を認識出来る様になっているんじゃないかなと。(黎Ⅱで事実になっていたら一瞬フリーズすると思う)
そしてそれをなーちゃんは知っていて、すーちゃんと一緒にいつも通りのテンションで出かけることによって『自分達は元気にしているから心配しないでね』ということを伝えようとするんじゃないかなぁ~と。
……っていうことを伝えようとしたのですが上手いこと書けませんでした!! お粗末さまでした!!
そしてネタ提供をしてくださったフォロワーさん、本当にありがとうございました。
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